京都議定書 (Kyoto Protocol)

京都議定書(きょうとぎていしょ、英 Kyoto Protocol)は、気候変動枠組条約に基づき、1997年12月11日に京都市の国立京都国際会館で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)での議決した議定書である。
正式名称は、気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書(英)。

議決内容

地球温暖化の地球温暖化の原因となる、温室効果ガスの一種である二酸化炭素 (CO2)、メタン (CH4)、亜酸化窒素 (N2O)、フロン類類 (HFCs)、フロン類類 (PFCs)、六フッ化硫黄(SF6) について、先進国における削減率を1990年を基準として各国別に定め、共同で約束期間内に目標値(削減目標参照)を達成することが定められた。

ただし、京都議定書第3条7に基づき各締約国は HFCs、PFCs、六フッ化硫黄の基準年として 1995年を選択できることとされている。
この規定は京都議定書の枠内のみである。
京都議定書の上位概念である気候変動枠組み条約では、一部の経済移行国を除き、基準年reference yearとして 1990年しか選択できないこととされている。
このため、直近年の温室効果ガス排出量の基準年比増減率が気候変動枠組み条約と京都議定書で異なる値で発表されることがある点に留意が必要である。
日本国内では専ら京都議定書の基準年との比較による増減率が提示される。
一方、締約国会議 (COP) では条約の基準年を用いた増減率が提示されることが多い。

また、京都メカニズム(クリーン開発メカニズム、排出権取引(ET)、共同実施(JI))や、吸収源活動が盛り込まれている。

なお、運用細目は、2001年に開かれた第7回気候変動枠組条約締約国会議(COP7、マラケシュ会議)において定められた。

削減目標

議定書で設定された各国の温室効果ガス6種の削減目標。
京都議定書第3条では、2008年から2012年までの期間中に、先進国全体の温室効果ガス6種の合計排出量を1990年に比べて少なくとも 5%削減することを目的と定め、続く第4条では、各締約国が二酸化炭素とそれに換算した他5種以下の排出量について、以下の割当量を超えないよう削減することを求めている。

92% (-8%) - オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、モナコ、オランダ、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、(欧州連合15か国)

93% (-7%) - アメリカ合衆国(離脱)

94% (-6%) - カナダ、ハンガリー、日本、ポーランド

95% (-5%) - クロアチア

100% (±0%) - ニュージーランド、ロシア、ウクライナ

101% (+1%) - ノルウェー

108% (+8%) - オーストラリア

110% (+10%) - アイスランド

なお、欧州共同体は京都議定書第4条の下で共同で削減を行うこと(バブル)が認められている。
欧州が採択するバブルでは、欧州共同体15カ国のそれぞれの削減目標がEU指令で定められている。
このEU指令下では、京都議定書策定以前から技術のみに依存するのではなく化石燃料を使わない方法で化石燃料由来排出量を減らしてきた北欧諸国などは京都議定書の目標値が緩く設定されており(p.84)、例えばスウェーデンは +4%が認められているなど、具体的な成果を挙げている国については相応の評価がされている。

遵守

気候変動枠組条約および京都議定書により定められた義務については、その約束が遵守されることを担保するため、罰則規定のように機能する規定が設けられることとなった。

具体的には COP7 および COP/moP1 で決定され、疑義が唱えられた際の審議・判断を行う遵守委員会が設けられるとともに、不遵守時には次のような措置が取られることとなっている。

報告義務不遵守

気候変動枠組条約および京都議定書による温室効果ガス排出量管理に必要な各種排出量および森林吸収量の変化を推計するための基礎的数値については、各国が集計し報告することとなっている(京都議定書 5条・7条、情報の報告義務)。
この報告に問題があった場合には京都メカニズムへの参加資格を喪失する。

排出枠不遵守

京都議定書により約束した割当量を超えて排出した(削減目標を達成できなかった)場合には、

超過した排出量を 3割増にした上で次期排出枠から差し引く(次期削減義務値に上乗せされる)。

排出量取引において排出枠を売却できなくなる。

発効条件

発効の条件は、以下の両方の条件を満たす必要がある(京都議定書25条)。

55か国以上の国が締結

締結した附属書I国(先進国、積極的に参加した諸国)の合計の二酸化炭素の1990年の排出量が、全附属書I国の合計の排出量の55%以上

後者の条件について、世界最大の温室効果ガス排出国であるアメリカ合衆国が国内事情により締結を見送っている。

経済発展をおこなう以上、多量の二酸化炭素を排出せねばならないと考えられたため開発途上国の自発的参加が見送られ、当初は推進していたアメリカ合衆国も後に受け入れを拒否、ロシア連邦も受け入れの判断を見送っていたため、2004年ごろまでは議定書の発効が行われていない状況であった。

2004年に、ロシア連邦が批准したことにより、2005年2月16日に発効した。

先進諸国の中で唯一京都議定書から離脱しているアメリカ合衆国政府は、産業界の自己経済利益のみを追求する考え方に基づき取り組みを拒否しているとの非難を国内外から浴びている。
同様に離脱していたオーストラリアでは世論の高まりを受けて総選挙により政権交代し、直後の 2007年12月3日に批准した。

なお、日本では2002年5月31日に国会で承認され、2004年6月4日国際連合に受諾書を寄託した。

署名・締約国数

署名国:84か国

締約国:172か国

排出量:63.7%

署名及び締結を行なった国(81か国)

アイルランド、アルゼンチン、アンティグア・バーブーダ、イギリス、イスラエル、イタリア、インドネシア、ウクライナ、ウズベキスタン、ウルグアイ、エクアドル、エジプト、エストニア、エルサルバドル、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、大韓民国、キューバ、ギリシア、グアテマラ、クック諸島、コスタリカ、サモア、ザンビア、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、セイシェル、セントビンセント及びグレナディーン諸島、セントルシア、ソロモン諸島、タイ王国、チェコ、中国、チリ、ツバル、デンマーク、ドイツ、トリニダード・トバゴ、トルクメニスタン、ニウエ、ニカラグア、ニジェール、日本、ニュージーランド、ノルウェー、パナマ、パプアニューギニア、パラグアイ、フィジー、フィリピン、フィンランド、ブラジル、フランス、ブルガリア、ベトナム、ペルー、ベルギー、ポーランド、ボリビア、ポルトガル、ホンジュラス、マーシャル諸島共和国、マリ共和国、マルタ、マレイシア、ミクロネシア、メキシコ、モナコ、モルディブ、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルーマニア、ルクセンブルグ、ロシア連邦、(欧州連合)

署名のみの国(3か国)

アメリカ合衆国、カザフスタン、クロアチア

締結のみの国(92か国)

アイスランド、アゼルバイジャン、アラブ首長国連邦、アルジェリア、アルバニア、アルメニア、イエメン、イラン、インド、ウガンダ、エチオピア、エリトリア、オマーン、ガイアナ、ガーナ共和国、カーボヴェルデ、カタール、ガボン、カメルーン、ガンビア、カンボジア、朝鮮民主主義人民共和国、ギニア、ギニアビサウ、キプロス、キリバス、キルギス共和国、クウェート、グルジア、グレナダ、ケニア、コートジボワール、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、コロンビア、サウジアラビア、シエラレオネ、ジブチ、ジャマイカ、シリア、シンガポール、スーダン、スリナム、スリランカ、スワジランド、赤道ギニア、セネガル、タンザニア、チュニジア、トーゴ、ドミニカ国、ドミニカ共和国、ナイジェリア、ナウル、ナミビア、ネパール、ハイチ、パキスタン、バヌアツ、バハマ、パラオ、バーレーン、バルバドス、ハンガリー、バングラデシュ、ブータン、ブルキナファソ、ブルンジ、ベナン、ベネズエラ、ベラルーシ、ベリーズ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ボツワナ共和国、マケドニア共和国、マダガスカル、マラウィ、南アフリカ、ミャンマー、モーリシャス、モーリタニア、モザンビーク、モルドバ、モロッコ、モンゴル、ヨルダン、ラオス人民民主共和国、リビア、リベリア共和国、ルワンダ、レソト、レバノン

注1)は気候変動枠組条約の附属書I国
注2)欧州連合:EU加盟のうち旧15ヵ国(2004.5拡大前)は、EUバブルとして共同で-8%の削減約束を負っている

2007年12月3日現在。

なお、批准を拒否している米国においては、219都市が独自に京都議定書を批准している。

京都メカニズム

国内での単なる排出量削減を除く植林活動や、国外での活動、削減量の国家間取引など、温室効果ガスの削減をより容易にするための規定で、柔軟性措置とも呼ばれる。
一般に、クリーン開発、排出量取引、共同実施の 3つのメカニズムを指すが、これに吸収源活動を含めることもある。

クリーン開発メカニズム

クリーン開発メカニズム (CDM Clean Development Mechanism) とは、先進国が開発途上国に技術・資金等の支援を行い温室効果ガス排出量を削減、または吸収量を増幅する事業を実施した結果、削減できた排出量の一定量を先進国の温室効果ガス排出量の削減分の一部に充当することができる制度である。

先進国は少ないコストで削減が可能となり、途上国は技術や資金の供与といった対価が望めるなどの効果がある。

排出量取引

排出量取引 (ET Emissions Trading) とは、下記 4種類の炭素クレジットを取引する制度である。
「排出権取引」「排出許可証取引」「排出証取引」とも呼ばれる。

AAU (Assigned Amount Unit) - 各国に割り当てられる排出枠

RMU (Removal Unit) - 吸収源活動による吸収量

ERU (Emission Reduction Unit) - JI で発行されるクレジット

CER (Certified Emission Reduction) - CDM で発行されるクレジット

これらの炭素クレジットを 1トン-二酸化炭素 単位で取引する。
排出量を排出枠内に抑えた国や事業で発生したクレジットを、排出枠を超えて排出してしまった国が買い取ることで、排出枠を遵守したと見做されるものである。

温室効果ガス削減が容易ではない国は少ない費用で削減が可能となり、削減が容易な国は対価を求めて大量の削減が望めるという、2つの効果を念頭に置いている。

京都議定書は国家間での排出量取引のみを定めているが、より効果的な温室効果ガスの削減が可能な国内での排出量取引も行われつつある。
しかしながら、排出量の上限を最初にどのように公平に割り振るかが問題であり、一律に割り振ると、既に省エネを徹底していた企業が損をするという問題がある。
このため、競売方式で排出権を購入する方式が広まりつつあるが、当初の購入資金が負担となることや、価格の変動による経営リスクが生じることが問題とされている。

なお、2001年のマラケシュ合意では、排出上の権利を与えるものではないとしており、欧州連合も排出の権利とは認めていない。
本来この制度は、排出量の削減による取引上の利益により、さらなる削減意欲を生じさせることを意図したものであるが、逆に排出枠の設定方法によっては過去の排出量が既得権益のようになってしまったり、炭素クレジットの市場価格が化石燃料から再生可能エネルギーへの切り替えや省エネルギー等による排出量の削減にかかる費用よりも割安になってしまった場合に、本来必要な努力を減じさせるおそれもあると指摘されている。

また、近年は関心の高まりを受けて第三者機関が認証する排出削減量 (VER Verified Emissions Reduction) が民間で取引されるようになったが(カーボンオフセット、グリーン電力証書などを参照)これらは一般に京都メカニズムの枠外で行われる取引である。

共同実施

共同実施 (JI Joint Implementation) とは、投資先進国(出資をする国)がホスト先進国(事業を実施する国)で温室効果ガス排出量を削減し、そこで得られた削減量 (ERU Emission Reduction Unit) を取引する制度。
つまり、先進国全体の総排出量は変動しない。

吸収源活動

吸収源活動とは、1990年以降の植林などで 二酸化炭素 の吸収源が増加した分を、温室効果ガス排出量削減に換算し算入するもの。
また、吸収源である森林が同年以降に都市化・農地化などで失われた分は排出量増加として算入される。
s気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書3で定められており、土地利用・土地利用変化及び林業部門 (LULUCF Land Use, Land Use Change and Forestry) 活動とも呼ばれる。

具体的には次の活動が規定されている(京都議定書 3条3項)。

新規植林(Afforestation、過去50年間森林がなかった土地に植林)

再植林 (Reforestation、1990年より前に森林でなかった土地に植林)

森林減少(Deforestation、森林を他用途に転換)

これらの英頭文字を取って ARD活動 とも呼ばれる。

これに加え、マラケシュ合意では「森林管理」「放牧地管理」「植生の管理」を利用することも許容された(京都議定書 3条4項)。
このため、既存の森林についても 1990年以降に適切な管理を行うことで、その森林を吸収分として算入できるようになった。
これは、義務達成を難しいと考え、しかも緑被率の比較的高い国である日本、カナダが主張し、採用されたものである。

概要

日本の削減量6%については、1990年(代替フロンについては1995年)を基準としている。
また、京都議定書目標達成計画で、それぞれの温暖化対策要素ごとに削減目標を定めている。
仮に達成できなかった場合、2013年以降の削減目標にペナルティが上乗せされるなどの罰則の適用を受けることになる。
しかし2007年度の国内の排出量は逆に基準年に対して9.0%上回っており、現状から約15%の削減が必要となっている。
約束期間に突入しても対策は全く進んでおらず、2007年の排出量は前年比で2.4%の増加となっていて、減少に転じる気配すらない。
約束を満たすために7000億円以上、場合によっては数兆円分の排出権の購入を迫られることが危惧されている。

対策別の詳細

(各目標値は平成17年4月28日閣議決定、平成18年7月11日一部変更、()内数値は2010年時点の排出量目標値・CO2百万トン換算)

エネルギー消費に関係する二酸化炭素排出量の削減 +0.6% (1,056)

日本より高い削減目標を掲げた 欧州連合 などの西欧諸国が抑制に努めているのに対し、日本では +0.6% どころか +8% と増加しており、この状況になっても政府当局は効果的な対策を実施できずにいる。

工場等からの排出量は割り当てられた目標を達成し斬減傾向にあるものの、運輸・業務(事業所等)・民生部門の増加が目立ち、特に自動車の氾濫により自家用乗用車については 2004年現在で +52.6% もの著しい増加を見せており、全国で見ても総排出量の 16% を占めている。

削減どころか増加している自動車および業務・民生部門への対策として、近年、環境税の手法も検討されている。
環境税のうち特に炭素税については、二酸化炭素排出に対して直接課税を行う手法により、それまでの外部費用を内部化し、つまり従来は環境汚染に対する外部性ために市場経済の中で環境負荷が考慮されなかった市場の失敗を補正する役割を担うものである。

これは、上記のように歯止めの効かず野放図に増え続けてきた自動車や民生部門等からの化石燃料の浪費に対し、産業界・個人などの枠にとらわれず幅広く、排出量に応じた経済的負担をさせるための枠組みを設けることで、市場原理に基づいて上記部門からの排出抑制に直接働きかけるものである。
このため、これを提唱する研究者や環境省などでは、二酸化炭素排出量の削減には極めて効果的であると考えられている。

上記のように、炭素税は工場等を狙ったものではなく自家用乗用車や民生部門などからの排出を抑制する効果を主にした制度である。
しかしながら工場等が企業努力により削減量を積み重ねてきたという言い分によって日本経団連などが強く反対し、また当団体などが盛んに行っている政府与党へのロビー活動等の影響力もあり、環境税への理解が浸透せず、未だに実現の目処も立っていない。

非エネルギー起源二酸化炭素排出量の削減 -0.3% (70)

二酸化炭素はセメント製造など工業製品の加工段階から排出されるものがあるが、混合セメントの利用などにより削減する計画を立てている。

メタン・亜酸化窒素の排出抑制 -0.4% (20)、-0.5% (34)

廃棄物・下水道汚泥などが主な排出源になっており、これらの排出抑制や処理方法の変更などによる削減が想定されている。

代替フロンの排出抑制 +0.1% (51)

冷媒用途が主になっており、産業界の計画的な取り組みに任されている状況である。

森林による吸収源の確保 -3.9% (-48)

管理された森林の成長による二酸化炭素の固定効果を見込むものであり、削減リストの中で最も高いウェイトを占める。
具体的には、次の森林を確保することとしている。

1990年以降、適切な森林施業(植栽、下刈、除伐・間伐等の行為)が行われている森林

法令等に基づき伐採・転用規制等の保護・保全措置がとられている森林

しかし、日本では新たに植林をする場所がほとんどない上、むしろ森林所有者の管理放棄(特に人工林)や、相続税支払いのために売却・宅地転用 を余儀なくされる山林や農地の増加、さらに生産緑地地区農地課税の扱いが異なる自治体を施行したり、保安林維持予算の縮減・林野庁職員の大幅減員を行うなど政府与党の政策はむしろ逆行しているため、このままでは当初見込まれた吸収量を達する可能性が薄いと考えられており、達成できるかどうかは微妙な情勢である。

なお、林野庁ではこの削減を達成するために、例えば間伐tree thinningについては平成19〜24年の 6年間に 330万ヘクタール で実施することとしている。
この面積は日本全国の総森林面積の 13.3% に当たる。

排出量取引、技術供与による削減 -1.6% (-20)

排出量取引、技術供与などによる削減については、近年、京都メカニズムなどのルールづくりが進められているところである。

各国の取組状況

削減義務を負う国・地域(附属書I国)の、1990年から 2005年にかけての温室効果ガス排出量の増減割合を下表に示す。

アメリカ合衆国はまだ京都議定書を批准していないため削減義務は課されていない。

ギリシャの値は 2006年に提出された資料による。

京都議定書に関する議論

地球温暖化対策や京都議定書の在り方については、多種多様な議論がある。
中でも、温室効果ガスの削減の具体的手法、数値目標については、各国の意見が対立する例が多く、個人レベルでも議論がある。
また、京都議定書の必要性や効果については、懐疑論(疑問視する意見)が展開されることも少なくないが、その中には信頼性に乏しいものも多く含まれている。

日本国内での議論

京都議定書の削減義務に対しては、日本国内で下記のような議論も見られる。

基準年を1990年に設定したのはロシアの批准を促すことなどにも配慮されたという国際政治の現場にありがちな話を指摘する向きや、「産業界を中心に世界有数の環境対策を施してきた日本が6%もの高水準を求められている」といった論調により、「この議定書が締結・発効に至る過程で政治的に歪められている」とする意見が散見される。

しかしながら、仮に日本が「産業界を中心に世界有数の環境対策を施してきた」としても、 人口一人あたりの化石燃料由来温室効果ガスの排出量は高く、温室効果ガス排出量の削減もできていない。

京都会議の議長国であった日本には、会議を成功させるという、国内外の世論によるプレッシャーがかかっていた。
会議をまとめやすくするという外務省の思惑と、国内の温暖化対策を加速させるという環境省の思惑とがあった。

日本の数値目標が-6%になった経緯は日米欧の非公式会合での政治的合意によるものであり、アメリカ合衆国と日本が足並みをそろえたのは、途上国の参加を促すためであった。
しかし、米上院はバード・ヘーゲル決議を採択していたので、途上国が参加しない場合など、3項に当てはまる場合は、上院が議定書を批准しないことが決まっていた。
また、ヨーロッパやロシア、米国は、それぞれの国のエネルギー事情から、数値目標が達成可能かどうかや、経済に与える影響をあらかじめシミュレーションしていたが、日本は6%に対して、裏づけがないまま合意に至っている。

日本の達成が難しいと囁かれ始めた 2007年頃になって、京都議定書自体が欧米諸国による政治的な圧力であるという陰謀論(そもそも根拠が示されていない、既に支持を失った議論を蒸し返しているなどの理由により懐疑論にもなり得ていないもの)が、一部評論筋や個人の論評などで、にわかに唱えられはじめるようになった。

ポスト京都議定書の協議が始まるようになると、温室効果ガス排出量削減の必要性は認めながらも「最も二酸化炭素排出量の多い産業である鉄鋼業では、日本のエネルギー効率は高いことから削減余地が少ない(のだから他国に削減させるべきである)」といった主張が、主に利益団体より出されるようになった。

産業の未発達な発展途上国と比較して、人口一人当たりの温室効果排出量を議論するのはナンセンスであり、明らかに日本にとって不利な規定となっている

効果に関する議論

京都議定書の効果に対しては、下記のような議論も見られる。

締約当時に開発途上国と見なされた中華人民共和国・インドなどが、その後順調な経済的発展を遂げ、非効率的なエネルギー政策で大量に温室効果ガスを発生させ、世界有数の排出国となっているにも関わらず、何ら義務を負っていないことも問題視されている。
しかしながら途上国の言い分である「先進国の結果責任に基づいて自主的に二酸化炭素排出量を減らす努力義務を途上国が負うのは身勝手」との意見も根強く、京都議定書の次のスキームを構築する作業は残念ながら遅遅として進んでおらず、京都議定書は一過性のもので失敗に終わる可能性が高いと見る意見がある。

→中国・インドなどいわゆる開発途上国の排出量が増加しているのは事実であるが、2007年には世界最大の排出国であるアメリカ合衆国に匹敵すると言われる中国ですら人口一人あたりの排出量は約1/4であることの難しさも内包している(逆にいえば一人あたり排出量の多い国の削減幅が足りないという話にもなる)。
また、左記はあくまで単年の排出量で比較した話であり、累積排出量で比べればその差は歴然としているため、その事にも配慮してEUなどの工業先進国は率先して京都議定書を締結したものである。

その他、地球温暖化への対策緩和策に関する議論も見られる。
地球温暖化に関する緩和技術に関する議論を参照。

京都議定書の効果

現段階から米国が参加しても、温度上昇を 2100年までに0.15セルシウス度改善したり、2.5センチメートル の海面上昇を抑えたりする程度の効果であり「地球温暖化を 6年程度遅らせるほどの効果である」「京都議定書が保守的に守られた仮定でも効果は限定的」との指摘もあるものの、一定の成果であるといった評価がされている。

地球温暖化問題に対する懐疑論

地球温暖化に対してはその信頼性や影響について様々な懐疑論が見られるが、その傾向はいくつかに絞られており、概ね否定できるもの、または信頼性に乏しいと考えられている。

反証可能性に至っていないもの、地球温暖化の進行程度の差を指摘するものなどが多く見られ、いずれの場合も化石燃料由来温室効果ガスの地球温暖化効果自体を否定する科学的根拠が示されているわけではない。

京都議定書後の世界

京都議定書の定める2012年以降の枠組みについては、「ポスト京都議定書」として国際的な話し合いがされている段階である。

米国は国内世論の高まりなどを受けて協議に復帰したが、現在の枠組みに反発し条約改正を視野に交渉に臨む日本・米国・ロシア・オーストラリアなどと、既存の枠組みを進め先進国主導の削減を訴える EU などとの間の対立構造が形成されつつあると指摘されている。

また、開発途上国は先進国側の率先した削減や技術移転・資金援助などを求めているが、自国の削減目標設定などにおいては、累積排出量の多さ(右グラフ参照)などを指摘し「温暖化は先進国の責任」との反発を見せている。

[English Translation]