アワビ (Awabi)

アワビ(鮑、鰒、蚫、英名 abalone)は、ミミガイ科の巻貝の総称。
フランス語でオルモー(ormeau)。
またアワビ属をHaliotisではなくてNordotisとしている図鑑もある。
雌雄の判別は外見からではほぼ不可能で、肝ではなく生殖腺の色で見分ける。
生殖腺が緑のものがオスで、白っぽいものがメスである。

生態

成長したアワビの殻は長径5cmから20cm、短径3cmから17cm程度のおおよそ楕円形である。
形状は種により大きく異なるが、皿状の殻をもつ点では共通する。
東アジアでは日本の北海道南部から九州、朝鮮半島および中華人民共和国北部の干潮帯付近から水深20m程の岩礁に生息し、アラメ、ワカメ、コンブなどの褐藻類を食べている。
主に夜行性の物が多く、日中は岩の間や砂の中に潜っている。
産卵時期は北海道の8-9月から房総半島の11-12月と地域差がある。

アワビの殻の背面には数個の穴が並んでいる。
この穴はえら呼吸のために外套膜に吸い込んだ水や排泄物、卵や精子を放出するためのものであるが、殻の成長に従って順次形成された穴は古いものからふさがっていき、常に一定の範囲の数の穴が開いている。
アワビではこの穴が4-5個なのに対し、トコブシでは6-8個の穴が開いている。
また、アワビでは穴の周囲が富士山の噴火口のように盛り上がっており穴の直径も大きいのに対し、トコブシでは穴の周囲は盛り上がらず、それほど大きくは開かない。

食材

鮮魚

アワビは高級食材で、コリコリした歯ざわりが特徴。
刺身、水貝、酒蒸し、ステーキ、粥などに調理される。
取れたての生きの良いアワビを磯焼きにして賞味する地方もある。
また地方によっては、アワビの肝も珍味として食べられる。
これらで最も高価なアワビはクロアワビと言われている。
また、クロアワビのステーキなどで名を上げるシェフも多く、日本版西洋料理として紹介されている。
変わったところでは、塩で硬く締めたアワビの肉を下ろし金で摩り下ろし、同量のとろろと合わせた「鮑のとろろ汁」と言う料理が存在する(小泉武夫氏の著作『奇食珍食』に詳しい記述がある)。

南アメリカに生息するアッキガイ科のロコガイ(チリアワビ)やスカシガイ科のラパス貝(ラパ貝)は、食感がアワビにやや似ているため、アワビの代用品として輸入・加工されることがあるが、これらの貝は分類学的にはアワビとは全く異なる種である。

干し鮑
中華料理ではアワビをゆでてから干したものを乾鮑(ガンパオ)とよび、大きいものはたいへん高価でかつ珍重される。
日本でも古来、内陸部で食べる鮑は羅鮑(身取り鮑)で殻から取った物を干し乾燥していた。
高級な干し鮑の産地として、日本の青森県や岩手県が知られており、大間町産のもの(広東語で「禾麻鮑 オウマパーウ」)や、大船渡市吉浜産のもの(きっぴん鮑。「吉品鮑 カッパンパーウ」)は香港で非常に高値で取引されている。
大きいほど高価になり、1斤(600g弱)当たりの頭数で、十頭鮑(乾燥品1つの重量が60g)などと呼ぶ。
日本以外では、南アフリカ共和国などのものが比較的高級とされている。

鮑(あわび)の肉を塩蔵し、煮て乾燥したものを「明鮑」といい、中国料理に用いられた。
その製造は複雑かつ細心の注意を要したものであった。
その工程は、除殻、加塩、洗浄、整形、煮熟、焙乾、二度煮、乾燥というふうになる。
原料は、ふつう「まだか」という種類で、新鮮な損傷の無いものを用いる。
「貝起」で鰓を傷つけないようにしながら介殻を除去し、塩漬けをする。
その目的は塩味を付けるとともに洗浄を容易にするためである。
塩量は製品に大きく影響し、多すぎると、煮熟中に亀裂が生じやすくなり、しばしば表面に水膨ができる。
塩が足りないと、肉面に黒点ができて肉が軟らかすぎて形が整わなくなる。
塩漬は殻を除いた生鮑を大、中および小に分けて、4斗入の樽に並べて塩をまいて漬け込む。
塩量は生肉10貫当たり、大粒なら6斤、中粒なら5斤、小粒なら4.5斤ほど。
塩は表面に十分に付着するようにする。
寒冷で塩が浸透しにくい時はいくらか増量し、温暖であれば減じる。
塩漬けして翌朝取り出してその桶に淡水を入れ、草鞋ばきでその中に入り、残るくまなく踏んで肉面に付着した汚物、殻などを取り除く。
そののち数回にわたって水洗いし(一個一個、鮑面をこすり汚物を除く)、あらかじめ煮沸している手引き加減の釜に入れる。
この時、鮑はしだいに縮まり、または変形するから、常に整形をし、かつ、肉が釜の底に焦げ付かないように注意しながら煮熟する。
およそ1.5時間後、釜の蓋をはずし、さらに3~4時間ほど煮熟し、掬い上げて陰干し、冷却する。
肉が冷却すると焙炉にかけて乾燥する。
これは「水抜き」といい、よく肉を反転して均一に火が通るようにする。
こうして適当なときに火から取り下ろし、放冷し、翌日、肉がなおやわらかなものに二番火を入れる。
次には二度煮をおこない、前回の煮熟の不足を補い、かつ、形状を固定させる。
沸騰した釜に原料を再びいれ、湯が沸騰してきたら原料を掬い上げて蒸籠に並べ、風通しのよい日陰で放冷する。
完全に放冷したらふたたび焙炉にかけてしばらく焙乾し、原料を握って我慢できないほどに熱が加えられれば取り下ろして放冷する。
こうして日乾と焙乾をおおよそ晴天5~7日続けて、焙乾をやめ、日乾だけをおおよそ1ヶ月続けて完成とする。

薬用

中国医学ではアワビ属のミミガイ、フクトコブシ、エゾアワビなどの貝殻を、「石决明」(せきけつめい)と称して、薬用にしてきた。
「清肝明目」(せいかんめいもく)、即ち、肝機能を改善し、同時に目の機能を高める効果があるとする。
主成分は炭酸カルシウムであるが、現在は中国においても日本においても局方には入っていない。

その他

貝殻をボタン (服飾)などに用いる。
また、殻の裏側には非常に美しい真珠光沢があり、ごく薄く切り出したものを螺鈿細工などの工芸材料に用いる。

また、殻の真珠層を利用して真珠の養殖に使われることもある。

漁業

養殖・放流事業

養殖の稚貝には餌として、褐藻類を与えるものと、人工飼料やアラメ等を与えるものがある。
前者は稚貝放流事業で放流される物が殆どで成長した物でも稚貝が天然物か否か全く見分けがつかない。
後者は、殻が青~緑色になっており、成貝となってもこの色が消えることはない。
そのため、殻頂部の色はアワビが天然ものか養殖放流ものかを見分ける印として用いられ、グリーンマークとよばれる。

陸揚げ漁港

2002年度(平成14年)
第1位 - 下津井漁港(岡山県)
第2位 - 泊(大原)漁港(宮城県)
第3位 - 萩漁港(山口県)
第4位 - 牟岐漁港(徳島県)
第5位 - 北上漁港(宮城県)
注:漁獲量は年度により異なる。
また、貝も同種ではない。
市町村単位、県単位でも順位が異なる。

分類

日本に生息する種は古くから利用されてきたので、様々な地方名(方言名)がある。

クロアワビ Haliotis discus discus

別名 オガイ(御貝)天皇家、伊勢神宮への奉納品という意味から来ている。

別名 オンガイ(雄貝)御貝からの読み変わりだが、雌貝との対の意味になっている。

別名 せぐろ 黒い殻から「せぐろ」とも呼ばれる。

別名 クロガイ 殻が黒いことから。

メガイアワビ Haliotis gigantea

別名 メンガイ(雌貝)オンガイの「オン」は雄という意味でも使われることから対比する意味で使われる。
メガイアワビは産地が限られ生産量も少ないため、実際にクロアワビの雌と思われていた。

別名 ビワガイ 足が黄土色(ビワ色)をしていることから来ている。

マダカアワビ Haliotis madaka

別名 メタカアワビ(メダカアワビ)マダカ、メタカは貝殻の「目が高い」という意味。
目は潮吹き穴の事。

別名 アオガイ 足が緑色をしていることから来ている。

エゾアワビ Haliotis discus hannai - クロアワビの北方亜種だが、同一種という説もある。

トコブシ Haliotis diversicolor aquatilis

別名 ゴケンジョ 「後家の女」の意で、平たい貝殻が二枚貝の殻に似ているにもかかわらず、1枚しかないありさまを夫を失った未亡人(後家)に例えたもの。

ミミガイ Haliotis asinina

人間との関わり

日本では縄文時代、弥生時代に於いては貝塚などから貝殻が出土するなどから既に食用とされていたことがわかる。
平安時代に於いても度々木簡にその名が登場しており、貴族が好んで食べていたことが分かる。

万葉集におけるアワビ

『万葉集』では鮑の産地として、御食国と呼ばれる国々の他に、紀伊国が登場する。

鮑玉は宝飾だけではなく、漢方薬として用いられていたと見られる。
特に貝類の真珠層には解熱作用があり、近年まで小粒の物は漢方薬として用いられていたが、現在、大半は入手しやすいアコヤガイ真珠の物に置きかわっている。
現在の真珠養殖が始まる以前、この鮑玉が日本の真珠産業であったと見られる。

伊勢の海人 朝な夕なに 潜つぐ 鮑の片思いにして -- 故事成語「アワビの貝の片想い(磯のアワビの片思い)」の元となった歌

神事としてのアワビ

熨斗鮑(のしあわび)
細く切った鮑を乾燥させた物で、祝い事に配られる。
伊勢神宮での神事に使用される国崎(三重県鳥羽市国崎町)産の熨斗鰒にちなみ、御師が縁起物として配りだしたのが一般に広まったきっかけである。
進物にも熨斗鮑を添付するのが正式であるが、次第に簡略化して熨斗鮑を図案化した物を印刷した熨斗紙で済ませることが多くなった。

平瓮
神社によっては、平瓮(直径10cm程度の白い皿)を陶器ではなく鮑の貝殻を使用することがある。

アワビを使ったことわざ

磯の鮑の片思い(いそのあわびのかたおもい)
常に相手を思っている状態のことを表したことわざで、アワビはアサリやシジミのように二枚貝ではないため、ピッタリの貝が無く、相手を常に思う状態であるということに例えた言葉である。

慣用表現、スラング

その形状が酷似していることから、または口にするとどちらも磯の香りが広がることから、女性器のことを「アワビ」と呼ぶことがある。

中国の姓
漢族には「鮑」(バオ)という姓がある。
「管鮑の交わり」で有名な鮑叔もその姓をもつ者のひとりである。

[English Translation]