数珠 (Juzu (beadroll))

数珠(じゅず、ずず)は穴が貫通した多くの珠に糸の束を通し輪にした法具。
仏を念ずる時に用いる珠との意味から「念珠(ねんじゅ)」とも呼ばれる。
梵語で「ハソマ」という。
念仏の際に音を立てて揉んだり、真言・念仏の回数を数えるのに珠をつまぐる目的などで用いる。
念仏の回数を問題にしない浄土真宗などの場合は、仏前での崇敬の念の表れとして用いる。

一般に仏事・法要の際、仏・菩薩・物故者の霊位などに礼拝するときに、合掌した手にかける。
手へのかけ方は宗派によって相違がある。

僧侶が手ではなく首にかけて用いる場合もある。

起源は諸説あるが、古代インドのバラモン教で用いられていた道具を原型とするとされる。
それが、釈尊により用いられ、後に中国に伝わる。
そして仏教伝来とともに飛鳥時代には日本に伝わったされる。
鎌倉時代に入り、浄土教が流行し称名念仏が盛んになるとともに一般にも普及する。

最近では腕輪念珠(腕珠)と呼ばれる、数珠を小型化し中糸をゴムなどにして腕に着けられるようにしたブレスレット的な数珠がある。
ただし腕輪念珠は、数珠本来の用途に用いるには大きさに無理がある。

数珠を取扱う上での注意

法具なので、大切に扱う事。
携帯時には、数珠袋(念珠袋)など専用の袋にいれる。

置く時は、鞄や念珠袋の上、ハンカチなどの上に置き、畳の上などには直に置いてはならない。

一般的に数珠を持つ場合は、房を下に垂らし左手に持つか、左の手首に下げるとされている。

珠の数

108という数は煩悩の数を表すとされ、数珠の珠はそれぞれの煩悩を司る108の仏を表し、人間のあらゆる煩悩を数珠が受けるとされている。

「本連」または「二連」、「二輪」と呼ばれる数珠は、「主珠(おもだま)」(珠の名称を参照)が108珠ある数珠の事。
二重にして使用する事が多い。

「片手」または「略式」と呼ばれる数珠は、本来は108珠である主珠の数を簡略化した数珠の事。
主珠の数は108珠の半数の54珠、三分一の36珠、四分の一の27珠、六分の一の18珠などさまざまである。
最近では、22珠や25珠など珠の数にあまりこだわらず、仕上がりの輪の大きさ(手の大きさ)に合わせた珠の数で製作されている。

百万遍念珠と呼ばれる、1080珠ある数珠もある。

珠の数え方には、「○○珠」以外にも「○○玉」や「○○顆」と呼ぶ事がある。
本文では、「珠」で統一する事にする。

珠の名称

本連数珠の場合、一番大きい珠(1珠ないし2珠)の事を「親珠(おやだま)」または「母珠(もしゅ)」と呼び、輪を主に構成する108珠ある珠の事を「主珠(おもだま)」と呼ぶ。
主珠の間に挟まれている、主球より小さい四つの珠の事を「四天珠(してんだま)」と呼ぶ。
その他に、房の部分に「弟子球(でしだま)」「記子(きこ)とも」、「浄名(じょうみょう)」、「つゆ」、「副珠」と呼ばれる珠がある。
〔宗旨により用いられる珠に違いがあるため、詳細は後述。〕

片手数珠の場合は、親玉が一珠のみで、親玉と房の間に「ぼさ(菩薩)」と呼ばれる管状の珠が入る。
輪を主に構成する多数の珠は、二重数珠と同じく主珠と呼ぶ。
主珠より小さい二つの珠の事を「二天珠(にてんだま)」と呼ぶ。

名称には、「珠」の字以外にも「玉」の字も用いられる。
本文では、「珠」で統一する事にする。

珠の形について

数珠の珠のかたちは、概ね以下の3種類に分けられる。

丸玉

みかん玉 真言・念仏の回数を数えるときに珠を繰りやすい。
数珠に仕立てたときに肉厚で重厚感があるように見える。
数珠の繰りやすさと美観の利点から、(宗派によって差異があるが)僧侶がみかん玉を好む傾向が多い。

平玉 天台宗で使われることがあるが、日蓮宗では使用しない。

材質

古い文献には七宝が良いとされるが、現在では菩提樹など様々な材質の珠が用いられる。
珠の材料により価格には、大きな差がある。
本水晶や珊瑚など明るい色合いのものは女性に好まれる。
高級な数珠用の素材としては、金線入り水晶(ルチルクォーツ)、本翡翠(ビルマ翡翠)、象牙、ラピスラズリ、天竺菩提樹などが用いられる。
安価な数珠用には、石や珊瑚に似せたガラスや樹脂製の珠も用いられている。
宗旨・宗派により、材質や色、房の形に決まりがある場合があるので注意が必要である。

主な珠の材質

宝石・貴石 水晶類(本水晶・紫水晶・茶水晶など)、メノウ(オニキス)、本ヒスイ(ビルマ翡翠)、インドヒスイ、珊瑚類、トルマリンなど

木 黒檀、紫檀、タガヤサン(鉄刀木)、ツゲ(柘植)、センダン(栴檀)、琥珀など

木の実 天竺菩提樹、金剛菩提樹、鳳眼菩提樹、龍眼菩提樹、虎眼菩提樹など

草の実 星月菩提樹、蓮華菩提樹など

香木 白檀、伽羅など

象牙

ガラス

セルロイド

中糸・房の材質

正絹と人絹(ポリエステル)がある。

房の形は頭付房、切房、撚房、四ツ目紐房、菊房(梵天房)、利休房(手毬房)などがあり、職人によって更に細かい種類がある。

材質別の注意点

天竺菩提樹など、虫害に弱い珠は桐箱に入れて保管するか、防虫剤を使用する。

珊瑚・真珠など傷つきやすい柔らかい素材の珠は、特に扱いを気をつける。

ラピスラズリ・赤珊瑚・真珠・孔雀石などの珠は、汗に弱いので保管するときは拭取ってから桐箱などに入れる。

各宗派用の本式数珠

以下は一般的な在家用の本式数珠の形式である。
菩提寺などに確認をするか、専門店で相談するべきである。

天台宗用

天台宗用の数珠は、輪の部分に主珠を108珠・親珠を1珠・四天珠を4珠を用いる。

珠の配置は、親珠1珠→主珠7珠→四天珠1珠→主珠14珠→四天珠1珠→主珠66珠→四天珠1珠→主珠14珠→四天珠1珠→主珠7珠で一周して輪になる。

親珠の下の房の結び目には、「浄名」と呼ばれる小珠が一珠付く。

浄名の下には2本の房が付く。
房の形は、いろいろな形が用いられる。(菊房や利休房(蹴鞠房)を用いる事が多い。)

房には弟子珠が付く。
弟子珠の形は、片方の房は丸珠が10珠, もう片方には、平珠が20珠と特徴がある。
それぞれの弟子珠の先に「つゆ」と呼ばれる涙型の珠が付く。

天台宗の数珠の特徴は、主珠に平珠(そろばん珠)と呼ばれる扁平の珠が用いられる事である。

真言宗用

持ち方 (中院流の場合) 右手の中指に母珠を掛け、左手の人指し指に緒留を掛ける。
そのときに、念珠の輪の形がX(エックス)の形になるように1回だけねじる。
合掌するときに、両方の房を手のひらの中に入れる。
そして、左手を上にしてふせて、右手を下にして、仰げて軽く2~3度すり合わせ、右手を手前にして引いて止める。
数珠を一双(いっそう)(一つの輪)にして持つときは、左手首へ掛けるが、その時には、母珠が左手首の上になるように掛ける。
数珠を一双に持つと、右手が使えるので経本を右手に持って読経をすることが出来る。
在家(壇信徒)が中院流の持ち方をしても差支えはない。

真言宗用の数珠は、輪の部分に用いられる主珠・四天珠の数は天台宗用と同じだが、親珠は2珠となる。
珠の配置は、親珠1珠→主珠7珠→四天珠1珠→主珠14珠→四天珠1珠→主珠33珠→親珠1珠→主珠33珠→四天珠1珠→主珠14珠→四天珠1珠→主珠7珠で一周して輪になる。

四天玉に近い側の親珠に付く房の結び目にのみ、浄名が一珠付く。

2つの親珠には、房が2本ずつ付く(計4本)。
房の形は、いろいろな形が用いられる (菊房や利休房〈蹴鞠房〉を用いる場合が多い)。

各房に弟子珠が5珠と「つゆ」が1珠付く(弟子珠・計20珠、つゆ・計4珠。

女性用の八寸の真言宗用の本連は、八宗用と呼ばれて販売されていて、宗派を問わず用いる事ができるとされている。

真言宗の僧侶が用いる数珠の仕様の一例を挙げれば、108珠・貫線を赤色・房を白色にする。
貫線を赤色にする理由については、さまざまな説があり、定説はない。
数珠には命(魂)が宿っているものと見なし、貫線を血管、血液に見立てている説などがある。
数珠の仕様は真言宗では事相(真言密教の儀礼・作法)の分野に入る。
僧侶用の数珠(108珠で貫線が赤色・房を白色)を在家(壇信徒)が使っても特に差し支えはない。

五大力念珠(ごだいりきねんじゅ) 醍醐山伝法学院長・服部如実が感得して作らせた念珠。
真言宗108珠の念珠であるが、2種類の材質の珠を用い、房を5色の紐(ひも)にしているが特徴。
醍醐寺において授与品として販売されている。

浄土宗・時宗用

浄土宗・時宗用の数珠は、二つの数珠を交差させたような独特の形。
男性用と女性用とで、主珠などの数に違いがある。

二つの輪には、それぞれ親珠があるが、房を直接親玉に付けない。

二つの輪のうち、片方にのみ「副珠」と呼ばれる小粒の珠が、主珠と交互に入る。

房は、副珠がある方の輪に金属製の二連の丸環を付け、その環に2房付けられる。
房の形は、菊房や利休房(手毬房)が主に用いられる。

房の結び目に浄名が1珠付く。

房には弟子珠が付く。
片側は丸珠が6珠、もう片方は、平珠が10珠付く。
弟子珠の先に「つゆ」が一つずつ付く。

日課念珠とも呼ばれる。

浄土宗では、本式念珠を用いるのが好ましいとされる。
この他にも、携帯用の36珠の物や百万遍念珠と呼ばれる大念珠も用いられる。

男性用は、三万浄土(三万繰)と呼ばれ、片方の輪の主珠が27珠、もう片方は、主珠20珠に副珠21珠が交互に入る。
念仏を唱える時繰り、副珠以外のすべての珠を使って繰ると27×20×6×10=32,400遍唱えられる。
そこからこの名がつく。

女性用は八寸浄土(六万繰)と呼ばれ、片方の輪が主珠40珠、もう片方は、主珠27珠・副珠28珠からできている。
弟子珠の数は三万浄土と同じ。
つまり副珠以外のすべての珠を使って繰ると、男性用の倍40×27×6×10=64,800遍唱えられる。

浄土真宗用

浄土真宗では、念珠を繰りながら念仏を唱える事が無い為、珠の数は関係無い。
珠の材質に関しても制限はない。
形状には拘らないが、合掌礼拝の際に用いる法具として大切にする。

男性門徒の場合:片手念珠の紐房を用いる事が好ましいとされる。
主珠の数に決まりは無く、大きさで決められ18~27珠の念珠が用いられる。

浄土真宗本願寺派(お西)の女性門徒:女性も、本連の念珠を用いない事を勧められる場合が多い。
なお玉の数は、女性用片手念珠の場合36珠などだが、やはり数に決まりは無い。
女性用片手念珠は、切房・頭無しの撚房(新松房)・頭付撚房が主に用いられる。

真宗大谷派(お東)の女性門徒:お西同様に、片手念珠で構わない。
房は、切房や新松房が主に用いられる。
しかし女性が、一般に八寸門徒と呼ばれる本連念珠を用いても問題は無い。
八寸門徒の形は、主珠・親珠の数、四天珠の配置は真言宗の数珠と同じ。
房に特徴があり、数取りが出来ない様に蓮如上人が考案した「蓮如結び」と呼ばれる独特な結び方がしてある。
四天珠がある側の親珠に付く房は、浄名が一つ、弟子珠は親珠から5珠目ずつの所で結ばれその先に5珠ずつ付く。
弟子珠の先には、それぞれ「つゆ」が一つ付く。
つまり弟子珠をX型に上に詰めて動かないようしてある。
反対側の親玉に付く房は、結び目(蓮如結び)を付ける。
その先には、弟子珠・「つゆ」を入れずに房を付ける。
房の形は、頭付房をつける場合が多い。

本連念珠を持つ時の持ち方

大谷派の場合は、二重にして2つの親珠を親指の所で挟み、4つの房を左側に垂らす。
その時、弟子珠がある方の親珠を指先側に、蓮如結びがある方の親玉を手前側にして手に掛ける。

本願寺派の場合は、二重にして房を下に垂らす。

なお男性用サイズの尺二寸以上の大型で、長房の本連念珠も見かけるが、本来は僧侶用の装束念珠である。

臨済宗用

臨済宗用の数珠は、主珠・親珠・四天珠の個数と配置は、天台宗用の数珠と同じ。
ただし、主珠の形は丸珠。

親珠の下に「ぼさ」が付く。
浄名・弟子珠は無い。

房の形は紐房が多いが、切房なども用いられる。

曹洞宗用

曹洞宗用の数珠は、主珠・親珠・四天珠の個数と配置は、真言宗の数珠と同じ。

房は、四天珠のある側の親玉にのみ付く。
房の形は、臨済宗に准ずる。

房の付く親珠の方が、付かない親玉より若干大きい。

「ぼさ」も房のある親珠のみ付く。

臨済宗の数珠に似ているが、曹洞宗の数珠は百八環金と呼ばれる金属製の環が通してある事が特徴。
高級な数珠には、銀製の環を用いることもある。

日蓮宗用

日蓮宗用の数珠は、主珠・親珠・四天珠の個数と配置は、真言宗の数珠と同じ。

房に特徴があり、親珠から出る房の形が対称では無い。

四天珠がある側(右手の中指に掛ける側)の親珠〔浄名珠とも〕に付く房は2本で、浄名が一つ、弟子珠は親珠から5珠目ずつの所で結ばれその先に5珠ずつ付く。
それぞれの弟子珠先にはに「つゆ」が付く。
四天珠が無い側(左手の中指に掛ける側)の親珠〔緒留とも〕に付く房は3本で、親珠の下に結び目がある。
3本の内の2本は、弟子珠がそれぞれ5珠ずつ付き、「つゆ」もそれぞれに付く。
残りの一本は、『数取』と呼ばれ他の2本より長さが短く、弟子珠が10珠付く。
『数取』には「つゆ」が付かない。

日蓮宗の場合、在家信者も必ず本式念珠を用いる事になっている(略式念珠を用いない)。

●上記は、主に在家用の数珠についてである。
僧侶用は、装束などにより細かい規定があり、この限りではない。

●宗旨・宗派によっても、数珠の仕様に細かな点で違いがある。

●地方によっては、珠や房の色に決まりがある。
(葬儀には、主珠(白又は透明)・房(白色)、法要には、主珠(色のある物)・房(色房)など)

数珠のオーダーメイド

念珠専門店などでは、オーダーメイドにて製作してくれる店もある。
本水晶と紫水晶を用いてのグラデーションの数珠を作るなど、市販品にはない凝った物も入手できる。

数珠の修理について

数珠は、中糸が切れる前に修理に出す。
房が痛んだ場合も、通常は交換できる。

高価な数珠はもちろんの事、形見の数珠などは中糸を交換する事により永く使用することができる。

天竺菩提樹や星月菩提樹(無漂白な物)などは、時間とともに飴色に変わっていき味わいが増すとされる。

修理は、念珠専門店、数珠修理に対応している仏壇店などで引受けてもらえる。

厄が切れるとの考えから、交換しない場合もある。
また、自然に切れた場合も、前記の理由により縁起が悪い訳では無いとされる。

その他

『南総里見八犬伝』に登場する8つの霊玉は、伏姫の持っていた水晶の数珠のうち8つの大玉が飛び散った物で、残りの100個の小玉は連ねられ、ゝ大法師が所持する数珠となっている。

他宗教でも、例えばキリスト教ではロザリオのように、同様の物が使用されることがある。

字の前後を入れ替えて「珠数」と書く場合もある。
「じゅず」という読みを「数珠」と書くのは、この熟語を作った中国の文法では動詞を先にする事になっているからである。
「珠を数える」を中国語では「数珠」と書く。

[English Translation]